▼錦市場の東の端、寺町通を西に入った場所にある漬物店「錦・高倉屋」。 通りに立ち籠めるヌカの香りと、店頭にずらりと並ぶぬか漬の木樽が目印です。木樽の中は、季節により様々に変化します。春には菜の花や大根のぬか漬、春から夏にかけては水茄子や青瓜の浅漬、祗園祭の頃には 少し漬かり気味の胡瓜や茄子のドボ漬が風物です。 秋になるとしば漬や日野菜、壬生菜や 赤蕪などが色を添え、底冷えの冬には聖護院かぶらの千枚漬が登場します。
今回は「錦・高倉屋」店主の井上英男さん(以下、I)にお話をうかがいました。
※本インタビューは2017年2月に行いました
漬物作りを通して感じる、細かな季節の移ろい
ー 創業の経緯を教えてください。
I:錦市場の町家を借りて、初めは漬物の販売だけしようと思ったのですが、実際に作る方が面白くなりました。
ー 漬物作りのどういう部分に面白さを感じましたか?
I:漬物は単なる加工品ではなく、時間とともに変化していくのです。時間がお漬物を作るのです。三次元の食品なんです。
ー 時間の中で、自分自身でいかに手を加えていくかという事ですね。
I:そうです。中々思うようにならないです。
ー そこも逆に、次どうしよう、ああしようという面白さになるのですね。
I:そうです。そこが面白いところです。
ー 特に何が人気なのですか?
I:白菜や大根のぬか漬け、きゅうり、ナスです。
ー 同じ大根のお漬物でも、季節により味が変わっていきそうですね。
I:おっしゃる通り。日本には季節、四季があるでしょう?お漬物って、もっと細かい感じがするのですよ。12ヶ月よりも細かい感じがします。
それで、僕のところのパッケージとか様々なものには、二十四節気を使っているのです。レジバッグに印刷したり、色々と。お漬物をやっていると、細かい季節の移ろいを感じます。
ー それはお野菜の仕入れであったり、お漬物の様子を見たりする中で感じるのですか?
I:感じます。同じきゅうりでも、5月の始めと終わりとでは、色・形も変わっていきますし。
ー お店のコンセプトといいますか、主軸になっている考えはどのようなものですか?
I:できるだけお客さん本位な店にしたいと思っています。ですので、こんな新聞(=お店独自の広報物)も配っているんです。今の時代、普通は店のホームページとかブログに情報をアップしてそれを見て下さい、でいいのですが、お漬物を買いに来るご年配の人はネットをされない方も多くおられます。そういう方にも声を届けたいので、わざわざアナログな事をやっています。
ー ちなみに、若い方向けには何か考えていらっしゃいますか。
I:若い方向けとあえて考えないで、年配の方が好きなものを、若い方にどうアプローチするかという事を考えています。若い方が好きなものはなんだろう、という方向でははあまり考えないです。
ー 自然に任せているという感じですね。
現代に迎合しない昔ながらの漬物を
ー 今後、お店の目指すべき方向性などはありますか?
I:この店については、現代に迎合しない昔ながらの漬物を作りたいなと思っています。
ー 昔ながらの味を守っていくという事ですか?
I:そうですね、塩辛かったりとか、酸っぱかったりする味です。今時の漬物は健康志向や若者志向で、塩が薄かったり、甘かったりします。僕は目指しているのは昔ながらの味なのです。
しかし、作っただけでは売れません。なので、作る事と、なぜこの味を勧めるのかというアプローチがセットで存在しないといけないと思っています。おいしいものを作っただけでは駄目で、どういうシチュエーションで、どのように食べると、どうおいしいのかという事を伝えていかねばなりません。
ー 食べ方の提案みたいなものですか。
I:ええ、セットにして展開していかなくてはいけないと思います。
ー 今回の「SAKE spring」に向けて考えている事をお聞かせください。
I:お酒のイベントなので、日本酒に合うおいしいぬか漬けの盛り合わせを作りたいと思っています。一からです。そのイベントの2日間に向けたぬか漬けを作ろうと思っています。
ー すごい目玉になりそうです。素材は秘密ですか?
I:今、試しています。
ー 実験開始しているのですね。
I:ただ、イベントが4月ですが、今、まだ4月の野菜がないので、3月位に漬け始めて4月にできあがる位になります。本当に時間が必要なのです。
ー ものによってはどれ位かかるものですか。
I:半年、1年かかるものもありますし、2年かかるものもあります。
ー 3月に漬け始めると、割とさらっと漬ける感じになりますか?
I:そうです。1日、2日だけ漬けるようなものもあります。
ー 浅漬けですね。素材やどういう味を出すかによって変わってくるという事ですね。
4月、開催当日のぬか漬けを楽しみにしています!
【DATA】
「錦・高倉屋」
http://www.takakuraya.jp
所在地:京都府京都市中京区東大文字町289-2(錦通寺町西入ル/錦市場内)