【いづう】味の芸術品、美しき旨し京寿司の名店

▼天明元年(1781)、京都・祇園で創業。初代・いづみや卯兵衛の初文字をとって、屋号「いづう」となりました。京都の祭のご馳走である鯖寿司を、名物として売り出したところ評判を呼び、今では鯖寿司といえば真っ先に名の挙がる名店です。
長い歴史の中で磨き抜かれ、洗練され続けた伝統の鯖姿寿司は、もはや味の芸術品といっても過言ではありません。

ハレの日の気分が高まる京の味はどのように受け継がれ、また進化しているのでしょうか。
今回は「いづう」若主人・佐々木勝悟さん(以下、S)にお話をうかがいました。

味の変化を楽しむ「鯖姿寿司」と日本酒の関係

ー名物「鯖姿寿司」は味の変化が楽しめるということですが、どのように変化するのでしょうか?
S:鯖姿寿司は基本的にお作りしてお昆布で巻きますよね。巻いているお昆布の出汁が寿司にしみていきます。時間が経っていくごとに、味が変化していき、良い意味で鯖もご飯も固くなっていくのが特徴です。

(鯖姿寿司)

 

ー 時間の経過に伴って、昆布の味が濃くなっていくのですね。
S:それが近年、「品質が違う」というお客さんからの問い合わせが何件かあるのです。例えば本店で食べるものと、百貨店で買われたものの品質が違うと。それは実は当たり前の事なんです。基本的にお店で出しているものは作りたてのものですし、百貨店で販売しているものは朝作っているものです。百貨店で買われたものはお昼過ぎには、やはりそれなりの時間、昆布出汁が効いているので、味が変化しています。でもお客様は「品質は一定」だと「味が変化しない」と思ってらっしゃるのです。
京都の鯖寿司と言ったら、元々保存食です。そのような意味合いも込めて食の発信ではないですが、「鯖姿寿司は味が変化していくものだ」という事を、色々なメディアで口を酸っぱくして言っています。その一環としてこの前海外でも、1つの鯖姿寿司は昨日お作りしたものを、もう1つの鯖姿寿司は提供の2時間前にお作りしたものを出して、風味の違いを楽しんでいただきました。

 

ー なるほど、食べ比べをしたという事ですね。時間ごとに味が違うということは「鯖姿寿司とお酒」の組み合わせもバリエーションがたくさんありそうですね。
S:そうですね。これは「山本本家」さんと以前からやっている取り組みですが、一日寝かせた鯖姿寿司と、今日握った鯖姿寿司に同じお酒が合うわけではないのです。一日寝かせた方は味がまろやかになって発酵が進んいるので、結構風味がきついしっかりしたお酒のほうが合います。今日握ったものは食感もフレッシュで魚っぽさも残っているので、よりあっさりしたお酒のほうが相性が良いのです。
それで、それぞれにお酒を少しずつ付けても面白いかなと思っています。うちが推薦する食べ方、それとまた逆にしてお酒を飲んで貰っても面白いと思います。そのような鯖姿寿司とお酒の組み合わせの提案も面白いかなと思っています。

 

ー 「山本本家」さんとの取り組みは、どういった経緯で始まったのですか?
S:何がきっかけかと言うと、肉料理と赤ワインが一緒に出ますよね。魚料理だと白ワインが相性が良いですよね。ただ、魚料理でも赤ワインが合う事もちろんあるし、肉料理でも白ワインと相性の良いものがあったりします。「肉料理だから赤ワイン」といったざっくりとしたものではなく、もっとより良く合うもの。お肉と本当に相性の良い赤ワインというものを合わせると、口の中で新しい美味しさが出てくるはずなんです。「肉でも赤ワインでもない、肉と赤ワインの混じった美味しさ。そういうのがあるよね」という話を、山本本家さんと話しました。それでうちの鯖姿寿司と山本さんのお酒でやってみるという事になりました。

 

ー なるほど。(山本本家)山本さんに以前取材させていただいたのですが、テイスティングする機会を設けていると伺いました。

山本本家インタビュー記事
S:そうですね。数ある「山本本家」さんのお酒をずらーっと用意して、鯖姿寿司も昨日握ったものと、今日握ったもの、それも時間単位であげていって、一気に食べ比べてみました。そうしたら全然バラバラのものはバラバラだし、相性の良いものは相性が良いし、と分かりました。結果としては「神聖 純米大吟醸」、これが一番合うという話になって、今うちの店でも販売させて貰っています。冷酒と鯖姿寿司って合いますよ。

 

ー 間違いない組み合わせですね!「日本の食文化を見つめ直して、発信する」とても素敵な取り組みだと思います。
S:もっと相性の良いものがあるのではないか。だから何事でも当たり前だと思わずに見直す、という事をやっています。私は跡継ぎです。受け継いできた何十年、何百年という代々の調理法がありますが、今は科学的な分析もできますよね。だから伝えられた調理法は本当に理にかなっているのかという部分をもう一回見直さなければいけない時期なのです。出汁のとり方とかも昔とちょっと変わっていますし。

 

ー 出汁のとり方も変わってきているのですか?
S:うちは料理店ではないので出汁の事をあまり言えませんが、今までのとり方と新しいとり方では、結局、出汁としてどちらがうま味を抽出できるかということなのです。味を変えるのではなくて、どの調理法が素材の持ち味をいかす事ができるか。

ー どの調理法を選択するかで、変わってくるんですね。
S:はい。だからといって、かんぴょうを炊くのに「醤油・砂糖・酒・味醂」この4種類を入れますが、そこに砂糖を足す、という話ではありません。炊きあげる時間についても、どうすれば持ち味を活かせるか。今まで「ひたすら何時間炊きあげなさい」とか、「火加減ははじめに弱火、次に強火、そして中火で」とやってきたけれど、それはなぜそうするかという事なんです。

 

ー そこには「素材の持ち味をいかす」という理由があるからなのですね。
S:より正確なものを追求していかなければなりません。ただ味付けは感覚をあまり当てにしすぎると良くありません。前の日にお酒を呑み過ぎたら次の日に塩分が高くなってしましますし…。

 

マレーシア出張で気付かされた名物の在り方
ー 今、何か挑戦されたい事はありますか?
S:先日マレーシアに仕事で行ってきて、お寿司の文化はまだまだ世界に浸透していないと実感しました。もちろん握り寿司が主流なのは理解していました。握り寿司は、できたてが食べ頃ですよね。けれど、私達の作っている京寿司や大阪鮨と言われているものは、作ってから少し時間を置いて味をなじませた頃が食べ頃なんですよね。
だから、できたてを食べるのが美味しい握り寿司とは発想が全く逆なのです。このようなお寿司もあるという事を多くの人に知って貰いたいです。またお寿司は、家族みんなで集まって食べるのものだし、祭のような地域で集う場面で食べられてきたものだし、そのような風習も知って貰いたと思います。

 

ー 実際にマレーシアでは、どのように提供されたのでしょうか。
S:マレーシアで提供した際は、マレーシアで手に入る食材でやらなければならなかったので、鯖のサイズは大きいんだけど、うちがお店で使っているような脂がのった魚ではありませんでした。実際に現地の方に食べていただいて、「正直に言うと、日本で使っている鯖はもっと脂がのっているんだけど、マレーシアで提供できる鯖はこれなんです」とお伝えしました。それでも「良かったよ」と言われて、喜んで帰っていただいたなという実感がありました。
私は「世界のどこにいても同じようにいづうの鯖姿寿司を提供しなければ」とずっと考えていましたが、そうではないと気付かされました。
もちろん同じような食材が手に入る所では同じものを再現するべきだと思うけど、やはりその土地の食材を使って作っても、それもまた鯖姿寿司なんだと。もっと広い視野で人に喜ばれるお寿司を作っていきたいですね。

 

ー 素晴らしいですね!でも「その土地のものを使う」というのは難しいのではないですか?
S:そうですね。うちみたいに名物の「鯖姿寿司」というイメージがしっかりしているからこそ、難しい。名物のイメージがふわっとしていたら比較的どんな食材でもできるんじゃないかな。私達も海外行って「何でも良いからお寿司作ってください」って言われると、それは簡単な話。美味しいものを作るだけだと簡単ですね。

 

ー 今後も海外への情報発信なども積極的にされる予定ですか?
S:やっていきたいと思っています。「もっと広い範囲に出ていかないと」と思うし。日本にはこれからもっと多くの方が海外から来るだろうし、それに私達も対応していかなければならない。その為にはやっぱりきっちりした情報発信をしていかなければと思います。
【DATA】
「いづう」
http://izuu.jp/
所在地:京都府京都市東山区八坂新地清本町367