【城陽酒造】京都から五里、奈良から五里。城陽発のチャレンジ

 

【城陽酒造株式会社】
▼古くから「五里五里のさと」と呼ばれる城陽エリア。京都市内から南へ五里(約20km)・奈良から北へ五里(約20km)に位置し、温暖な気候と木津川の流水に恵まれた自然豊かな地です。
「城陽酒造」では、地下100mから汲み上げた水と手間暇かけて育て上げられた酒米を用い、品質第一を目標に酒造りに取り組んでいます。
また、地元の青谷梅林で採れる肉厚で香り高い大粒の梅の実(城州白)を用いた梅酒は、添加物を一切使わず三年以上寝かせた本格梅酒として評判を集めています。

 

今回は「城陽酒造」営業 課長 大野祥平さん(以下、O)にお話をうかがいました。

 

城陽酒造の酒造り

― 城陽酒造さんといえば梅酒も有名ですね。実際にその歴史を教えてもらえますか?
O:歴史としては、明治28(1895)年から日本酒造りを主体とした会社として確立しています。元々島本家は地元にて金融業をしていたのですが、明治の終わりごろに「分家の方に酒造りを」という事から島本酒造部を立ち上げ、昭和48年に城陽酒造株式会社を創立して現在に至っています。
リキュールの方は創業から随分経って、平成になってからの試みです。地元の城陽・青谷梅林に「城州白」という希少品種の梅があるのですが、それを使って何かできないかという事がきっかけです。今でこそどこの酒蔵さんでもリキュール免許を持ってリキュールを造っていますが、うちが造り初めた当時は免許の取得自体がすごく大変でした。ですが、地元の産品のPRという事で色々と手助けもあって、平成3年にリキュール造りがはじまったのです。

 

ー 梅酒もそうですが、地元のものをお酒に生かすというのは、一貫したお考えがあるのですか?
O:そうですね。梅酒は地元の梅100%で造っていますし、本来日本酒もそうであるべきなのかもしれません。日本酒に関しては水が一番重要です。蔵では地下100mから汲み上げた伏流水、地下水だけで酒造りをしています。京都だと伏見や市内中心部でも名水が多くありますが、実は城陽のこの辺りもすごく良い水が出ます。水に恵まれた地域だからこそ、城陽にはコンニャクや豆腐メーカーの工場があるんです。おかげさまでうちも年間通して大体13度から15度ぐらいの水温の地下水が絶えず湧いています。

ー こちらの水の質としては軟水になるのですか?
O:京都は基本的には軟水と言われる事が多いと思うのですが、やはりこのあたりも軟水ですね。僕の感で言えば伏見の水よりは柔らかいかなと思います。柔らかいから良いというわけではないですが、柔らかいんです。

 

ー なるほど。酒米はどういったものを使っているのでしょうか?
O:酒米は京都府産の「五百万石」や「祝」などを仕入れています。あとは兵庫県産の「山田錦」ですね。以前は「日本晴」なども使ってたのですが、良い酒質を求めた結果、今は100%酒造好適米と呼ばれるものを使っています。

 

ー 京都でも山田錦は作られていますが、兵庫県産を使われているんですね?
O:実は昨年まで京都産の山田錦を一部、うちの代表銘柄である城陽の純米吟醸酒に使っていたのですが、今年仕込んでいるお酒からは同じ銘柄でも兵庫県の農家さんと契約栽培する形になりました。

 

ー お米の違いはプロセスの時点で分かるものですか?それとも呑んで明らかに分かるものですか?
O:僕はお米を見ても正直違いは分かりませんが、うちの杜氏はお酒造りは40年以上というベテランで、ちょっと変わった経歴でして…。夏場はお茶の農家さん、冬は酒造りをするというすごい人なんです。農家さんでもあるので、お米が入った時点で違いが分かるそうです。
去年の今頃に「来年に向けて何かしよう」と話していた時に、たまたま兵庫県の農家さんとご縁がありまして、今期から兵庫県産の山田錦を契約栽培する事になりました。実際に圃場や現場も見に行って農家さんに色々お話をうかがいしました。人柄も素晴らしい方で良いお米ができるだろうなとは内心思っていましたが、今年は素晴らしい山田錦を使っているので、さすが!の出来栄えです。

 

ー ぜひイベントにお越しの方にも味わっていただきたいですね!搾り方も無理に搾るのではなくて、ありのままに搾るというような方法のようですが、ずっと維持されているのですか?
O:そうですね。搾り機は中に段数を入れますが、その数を搾るお酒の仕込んでいる量に合わせて圧力がかかりすぎないようにしています。なおかつ、微妙な調整を行う事によって、柔らかく搾れる調整になってると思います。
お酒を搾った時に酒粕とお酒に分かれますが、その粕歩合の割合がまあまあ多い方だと思います。造り手としてはお酒がおいしいので良いですが、経営者からしたら効率が悪いようです(笑)

 

地元愛に溢れた城陽での取り組み

ー 蔵にも朝からお客さんが次々とお酒を買いに来ているようですが、地元の方が多いのですか?
O:基本的には地元の方が多いのですが、この時期(取材時:1月)は酒粕を目がけて買いに来られる方もいらっしゃいます。日本酒や梅酒を買い求める方が大半なのですが、それにプラスアルファして今の時期は酒粕や味噌を作る麹などの副産物を買いに来る方も多いんです。土日は遠方から来られる方や、帰省された方もいらっしゃいます。

 

ー 城陽の方は城陽愛が強いという印象なのですが、どういう点が愛着に繋がっているのでしょう?
O:日本酒というカテゴリーの中だと、一般的には伏見や洛中の酒蔵さんのものが京都のお酒のイメージです。けれど、歴史的な背景からうちが「地元に根付いたお酒」かというと少し違う気がします。というのも昔は今の10倍ほどの醸造量がありまして、ある程度の大きな規模による醸造を主に行っておりました。そうして造ったお酒を大手蔵に桶売りする事を中心として製造販売しておりました。
約30年ほど前に前社長が「桶売りに頼ってばかりでなく自社ブランドを確立しよう」と大英断をしました。その結果、醸造量は10分の1までに減りました。

 

ー 普通酒と言われるレギュラー酒で古くから地元に根付いたお酒ではなくて、新たにブランドを立ち上げ、どのように地元の皆様にPRしているのでしょうか?
O:もちろん販路についてはゼロから自分たちで築き上げて行く必要が出てきました。おかげさまで「ここのお酒を売りたい」という酒販店さんに恵まれ、少しずつ出荷数が伸びてきました。

 

ー 大手の下請けから脱却して、独立して直接お客さんとやり取りしていくという事は、ある意味で品質向上を目指したという事ですよね。
O:ありがたいことに酒販店さんが主導してくださっている面があります。僕たちのお酒を応援して下さって、飲食店さんのメニューに載せて貰った後、残れるかどうかはお酒自身の力ですよね。やはり残っていけるだけのものを造らなければなりません。

 

ー 販路開拓で特に力を入れて取り組んでいる事や事はありますか?
O:イベントや利き酒会など各地で催されるものにお声掛けをいただきますが、その全てには参加していません。
やってきた事としては、梅酒に関しては地元の城州白を使うという点と、最低3年以上貯蔵してから出荷する。日本酒に関してもなるべく良い原材料を使って、なるべく良い状態で、最大の努力をしてお酒を造っています。また、お酒が流通するまでのところにも手間をかけています。できたお酒は貯蔵せず、すぐに瓶詰しますし、瓶燗火入れという瓶のまま湯煎で火入れをします。機械でやると火入れを含めて3時間で終わる作業を、トータル3日ほどかけて行っています。さらに常温で保存できるお酒も、出荷までの間は冷蔵庫で保存しています。梅酒も日本酒もおいしかったら売れるし、おいしくなかったら売れないし、というシンプルな事だと思います。
酒販店さんに「売りたい」と言って貰っている以上、自信を持って薦められるものを造っていかなければ、というごく当たり前の事を繰り返しています。そのためにできる事は懸命に行い、結果的にお客様に評価して貰える事が理想ですね。

 

城陽酒造が目指す味わい

ー 大野さんは、ずっとこちらで働いておられるのですか?
O:実はまだ2年未満です。ですが、元々城陽酒造と取引もある酒販店で働いていまして、城陽酒造の営業部長で現在酒造りの頭でもある加藤さんとの縁があったのです。その後、酒販店勤務を経てある酒蔵に転職していた時に、加藤さんから「営業としてうちでやってみないか」と声をかけて貰ったんです。

 

ー ずっとお酒畑と言いますか、売る立場からも造る立場からも関わっているのですね。
O:全国の地酒を扱っている酒販店に9年ほど勤めていました。全国レベルでの良い酒を見られたというのは大きいと思います。京都というくくりはもちろん大事ですが、全国で戦える酒でないと将来的に残っていけないと思うんです。うちは京都のこれだけ南なので、市内の方には「城陽って京都だっけ?」と言われる事も…(笑)。何年かかるか分かりませんが、良い意味で京都でありながら京都に縛られすぎず、全国レベルに近づきたいですね。

 

ー 今でも全国で実力があるとされるお酒は口にされますか?
O:お酒は好きなので、他社のものも積極的に呑みますね。
お酒単独で呑む場合と食事中に呑む場合とで、求められるものが変わってくるんです。香りが華やかで良いなと思っても、食事中に呑むと料理と香りがぶつかるような事もあります。

 

ー 実際にはどのような味わいのお酒が評価されていると思いますか?
O:今の流れでいうと、香りが華やかで甘みがガツンとあり、それでいてすっきりという、きれいな甘み感というかうま味感を意識したものが人気があります。うちにはそうしたものはほぼないので、鑑評会に出しても受賞しないのを承知の上であまり出品していません。
開けてすぐおいしいお酒というのが、今の日本酒のイメージになっていますが、うちのお酒は開けたてがピークではないんです。例えば料理店で封切りのお酒が出されると喜ばれますよね?けれど、それはあくまでそのお酒は開けたてがピークなだけであって、その後はどんどん品質が劣化していくと思うのです。
うちがお酒をなるべくフレッシュな状態で瓶詰して瓶燗火入れをするのは、開けてから空気に触れる事で味わいが伸びるという事を意識しているからです。開けたてよりも2、3日経って、1週間経って、10日経ってもおいしく呑んでいただけると思います。料理店でいつでも安心して呑んでいただけるというのをイメージしているからです。

 

ー なるほど。時間軸をどう捉えるかということなんですね。
O:鑑評会やコンクールでは開栓した日に利き酒をするので、うちのお酒のポテンシャルの60%くらいのところで評価されてしまうわけです。元々そういうタイプのお酒ではないので、余計に受賞は難しいですよね…。いじけです(笑)
それでも毎年一部には出品しています。自分たちのお酒がどのような立ち位置にいるか、どのように評価されているか、またどういうお酒が評価されているかを確認する意味も含めて参加します。

 

ー その上で、お酒の味はどういう風に決めていくのですか?
O:一番大事にしているのが「料理とあわせておいしく、そして呑み飽きない酒質」という基本的なコンセプトです。使うお米や精米歩合で変化がありますが、このコンセプトをどういう形で表現するのかというのが課題です。
日本酒がブームの中、香りが華やかだったり甘みがすごく強かったり、甘酸っぱかったりと、色んな味わいのお酒があります。うちは香りが華やかであっても、どこか落ち着いた派手すぎない香りで、味わいもうま味があってしっかりと酸味があります。酸味といっても、ただ酸っぱいだけではなくて、全体を引き締める酸味というか、後に残らない酸味といった、きれいな酸をいかに出すか、フレッシュで上品な酒質がいかに保てるかという事を考えています。
1杯呑んだ後に2杯目、3杯目が欲しくなるお酒というのが理想的ですね。

 

ー 大野さん自身の営業としての仕事はどのようなものですか?
O:うちの蔵を通年でみれば、日本酒造りで忙しいシーズンが終わったら、次に梅酒の仕込みが始まるといった感じです。酒造り、梅酒造りに携わっている蔵の社員は、本当に大変だなと思いますね。日本酒の仕込み時期には毎日早朝から厳しい作業が休みなくありますし、梅の収穫時期だと、毎日入荷した梅を洗って漬ける作業がありますし。一方で営業としての僕は、夏場は落ち着きますので、来年どうしようかな、今年の酒どうしようかなと、考える時間でもあります。

 

ー 営業でありながら、企画のような仕事でもあるんですね。
O:そうですね。興味深いのは、皆さん同じようにより良いお酒をと思って造っていても、お客さんの選択によって伸びていく銘柄と、横ばいだったり徐々に人気が下がったりするものが出るという事です。製法も抜本的に違うわけではなく、基本的には同じような手順なんですよね。ここが酒造りにおいて、面白くもあり難しいところです。
良くも悪くも日本酒は嗜好品なので、100人のうち100人に好まれる事はないんです。なので、どこを目標に据えるか。そして目標に向かって、当たり前の事を当たり前にしたい。基本的な部分をおろそかにすると、必然的に結果に出てくると思うのです。多分そうした日常の積み重ねた結果がお酒に出てるのでしょうね。

 

ー 酒造りにおいて基本的な部分を今後も継続されていくのですか?
O:もちろん予算もありますが、その中で精一杯できる事をチャレンジして、良いと思う事は継続していくというのは、今後も変わらないと思います。中々お金をかけて設備投資するわけにはいかないので、原料や関わる人の努力でカバーできる部分は最大限続けていきたいと思っています。

 

ー 酒販店からこちらに来られたという事なのですが、営業の内容は全然違うのですか?
O:酒蔵に移った時は、びっくりするくらい全然違いましたね。というのは、例えば角度的に180度の勧め方が出るのは酒販店さんです。
酒販店での勤務時代は「日本酒の造り手さんの思いを、いかに買ってくれるお客様に伝えられるか。お客様の好みに近いものをセレクトできるか」を大事にしていました。つまり、生産者から仕入れたものの中から、A・B・Cと選択肢を出してお客様に選んで貰うような形です。
けれど、いざ酒蔵で生産者の立場になると「いかに造り手の思いを伝えながら販売していくか」というのは変わりませんが、その上で自社の強みをより深く伝えなければなりません。正直なところ、最初は困惑しました。

 

ー 数ある選択肢の一つではなく、自社を目がけて選んで貰うという事ですね。
O:「この良さを知って欲しい、呑んで欲しい」という思いからですが、ここを理解していただくのが一番難しい部分です。
城陽という場所は、京都市内から南へ五里・奈良から北へ五里の中間地です。酒処の京都・伏見とも奈良とも異なり、良い意味で色がつかないんです。ポジティブに捉えると、城陽でのスタートは武器にできるかもしれません。「京都でありながら、京都っぽくない」というのは誉め言葉として受けとめて、今後は城陽ブランドとして確立できれば良いですね。

 

ー まさに城陽だからこその個性ですよね。
O:そうですね。100種類続けて試飲したら忘れるようなお酒かもしれませんが、きちんとしたコンセプトのもとに成り立ったお酒なら、それが個性ですし。
僕自身お酒が好きなので、楽しくやっています。

 

ー なるほど。これからの城陽酒造さんのさらなる発展を楽しみにしています。ありがとうございました!

 

【DATA】
「城陽酒造株式会社」
http://joyo-shuzo.co.jp/
所在地:京都府城陽市奈島久保野34-1
代表銘柄:「城陽」