【祇園さゝ木】味も演出ももてなしも、全てが満喫できる、京都・最高峰の割烹

▼名店が並ぶ中でもひときわ輝きを放ち、予約が取れないと評判の「祇園 さゝ木」。毎日昼食は12時から、夕食は夜6時半からの一斉スタートで供される料理は、カウンターの目の前で手際よく調理され、生き生きと皿に映え、おいしさへの感動が味わえるものばかり。まさしく食べる事の楽しさ、そして料理人という仕事の素晴らしさを感じられる「劇場」です。

 

 

ユニークな発想とそれを形にする技術を持ち、京料理界の新たな領域を切り拓いたオーナーシェフの佐々木 浩氏に、お店の立ち上げから今までを振り返っての想い、そして将来の夢をお聞きしました。(佐々木氏、以下S)

 

京料理の世界を少しでも広げたい

ー 今年9月で20周年を迎えるとお聞きしました。この20年を振り返られて、どんな時間でしたか?
S:あっという間でしたね。と言いますのは、京都には代々継いでいかれる店が沢山あります。その中において、僕は一代目で、おまけに他府県の人間です。そんな立場で20年間やってこれたのは、感慨深いです。
僕がいつも思うのは、最低1カ月、3カ月、半年、うまくできたら1年。「一生、あそこのあれがむっちゃおいしかったで」というものを、一つ入れないといけないと思うのです。それが遊び心であっても、本ちゃんであったとしてもです。僕はその辺をやってきたかなと思います。

例えば、京料理の中に寿司を入れていったり、大皿で出していったり、昼間だったら6種類も7種類もあるデザートを、皆さんに「好きなだけ選んでください」とワゴンサービスをしたりという事は、これはもう異端な事でした。「あいつアホちゃうか」とか「佐々木は何もわかっていない」とか、むちゃくちゃ言われました。でも、それがお客様に支持されたら、逆にみんな真似をしていくわけです。今、ものすごく大皿盛りが多いでしょう。それまで、大皿盛りはほとんど無なかったのです。

今まであった京料理という世界を、5センチでも広げられたかなと思っています。それがみんなの刺激になって、また京料理が進化していっているのではないかと思っています。
僕が若手に言うのは「僕が5センチ広げたとしたら、あなた方もまた、3センチでいいから広げてくれよ」という事です。冒険心を持った若手が出てくるのを楽しみにしています。

目の行き届く規模のお店を自分ひとりで、というのも良いのですが、やはり若い子を育てて、若い子が独立して「どこで修業してきたんや」と聞かれたときに「祇園さゝ木で修業しました」と答える。「そうなんや」となって親方としてもブランドになる、自分もブランドにしていく、こういう伝承的なもの・受け継ぐものが、今、無くなってきているなと思います。
自分の時代さえ良かったらいい、自分さえ良かったらいい、では物足りないんです。「親方に教えてきてもうて、お前があんねやろ。それをなんで下に受け継がへんの?次の時代は誰が作るの?」という話ですね。

西陣織にしても、清水焼にしても、全部親方がいて、自分がいて、今度はその弟子に教えていくというのは、京都独特のものだし、それがあって当たり前だと思うのです。そのあたりが今の京料理の世界には欠けているような気がしますね。

 

仕事の方向性を大転換する事になった、ある一言

ー あるインタビューで印象的な受け答えがありました。ご自身のお店を開かれる前、先斗町で料理長をされていた時のレシピを見て、よくこんなバランス悪い献立を出していたなと思う事があると。今でも、昔を振り返る事はありますか。

S:商売を始めた時の事で、僕が一番印象に残っている事があります。
うちは1997年の9月4日にオープンしたんです。9月1日から「ぜひ食べに来てください」と言って、周りのお茶屋のお母さんたちを呼んだのです。その時に、あるお茶屋のお母さんが、お客さんとお見えになりました。そこで八寸(様々な料理を盛り込んだ皿)を出した時の事です。

9月初旬なので、ちょうど新銀杏の時期でした。松葉に刺して盛り付けました。しかしお母さんは箸を付けないで、お客さんとずーっとしゃべっているわけです。
次の料理が出せないから、「お母さん、これあきませんか」と言ったら、「この銀杏、1時間か2時間位前に松葉に刺したやろ」と言われて、「そうです」と答えたら、「そんな出し方してうまいか?どない思う?」と言われたのです。

「あんな、祇園というとこは、もし銀杏出したいんやったら、塩炒り銀杏にして、4個か5個位小皿に出すねん。そうして、私がむいたりあんたがむいたりして、『銀杏ってもう出てんの』『はあ、もう秋もそこまで来てますね』と、これが粋な会話やんか。ここは祇園やで、そんな粋な仕事を目指してみ。皆とおんなじように葉っぱを付けるだけが能やないんとちゃうか」と言われまして…。

僕は、先斗町時代に八寸で名を上げたような人間ですから、盛り付けにはすごく自信があったんですよ。この一言で、天狗の鼻がボキボキに折られたような感じで、ほんまにショックでした。オープン直前、9月2日か3日の事です。翌日から一般のお客様のご予約が満杯入ってました。「うわー、これえらい事になったな」と思って、悩んで悩んで。でも何をしたらいいのか分かりません。絶望的な気分になったのを覚えています。

夜通し悩んで、お母さんの言った事をもう1度自分なりに考え直してみました。すると、「形式にとらわれるのではなく、とにかくうまいもん出しなはれ」という事だなと思ったのです。僕は頭を転換して、八寸も全て捨てて、うまいものを出そうという料理に変えたのです。それが全ての始まりでした。

 

ー 人の集中力は2時間か2時間半が限度だと、それは料理人もそうだしお客さんもそうだと、だから、お昼は12時、夜は6時半に一斉にスタートして、料理人もお客さんもみんな一体感を持って楽しんで貰う、という今のスタイルも、そこから始まったのですか。
S:いや、開店当初は、6時半とか7時半とか、バラバラの時間にお受けしていました。完全に6時半スタートにするまでに、約2年かかりましたね。

 

ー 最初はやっぱりお客さんに合わせていたのですね。
S:一斉スタートにした時は、めちゃくちゃに書かれましたよ、メールでも何でも「なんで6時半に行かなあかんねん」みたいな事を。「会社半日休んで行かなあかん」とか「用事を切り上げて行かなあかん」とか、そんな話ですよね。
いざスタートしても、初めはお客さんは6時半に来ません。とりあえず「6時半でお願いします」と言ってやっていたのですが、実際に6時半に集まっていただいたのは半分位だったでしょうか。でも、いらっしゃらないお客さんがお見えになるまで、7時まででも待ったのです。貫くのは大変でしたよ。「帰ったろうか」と言う人もいましたから。早くから来ていらっしゃったお客さまには「ほんまにすみません」と言って謝り倒しました。

 

ー 今やこの一斉スタートというスタイルが、「祇園さゝ木」さんを特徴づける点になりました。お客さんも一体となってお料理を楽しむこの2時間半というものが、他のお店と全く違うものになっています。
S:2時間半なら最高の集中力でやり切れます。ご存じのように、真ん中にピザ窯がありますが、ローストビーフを2人分というのは焼けないわけです。1本焼かないとおいしくないのです。そういう意味合いを込めての一斉スタートなのです。ローストビーフのみならず、あわびを焼くにしても鯛の塩釜をするにしても、おいしいものを出すにはタイミングが非常に重要なので、このスタイルを維持しているのです。

 

自分を奮い立たせるもの、目指しているもの

ー お料理の世界に入られた時は、常に上を目指してという感じだったと思うのですが、今やもうご自身が上に来られたと言えそうです。逆に今の方が心の持ちようというか、精神的に奮い立たせるのが難しいのではないかと思うのですが、いかがですか。

S:僕が今、一番意識しているのは、親方である事。本店である事です。うちで修業した子が今5人、それぞれにお店を経営しています。そんな中で僕は、やっぱりあくまでも本店でいたいのです。お客さんがここにいらっしゃった時に、「やっぱりここは違うね。お弟子さんのお店へも行ってきたけど、あっちはあっちの味があるけれど、やっぱりここはまた違うな」と言わせなかったら、僕は成り立たないと思うのです。

若い子たちは彼らなりに全力で頑張ってくれています。彼ら以上に自分を磨いて、「さすが親方やな」と言って貰わなかったら、僕の値打ちが全くありません。若い子が「祇園さゝ木出身だ」と言ってやってくれているから、僕が光ります。でも、逆をいえば、僕がへたってしまったら、彼らは光りません。だから、僕は常に光っていなければいけないのです。

だから、僕は50歳で引退しようかと思っていたのですが、60歳までやってみようと思いました。今56になりまして、あと4年間、一生懸命頑張らないといけないなと思っているのです。でも正直に言うと、やっぱりちょっと疲れています(笑)。若い子以上にエネルギーを出していこうと思っても、彼らはまだ頭が柔らかいから、いろんな発想を出してくるのですけれども、僕はもう55も過ぎました。若さを吸収していかないと進化していけない時代が、現実にもう僕には来ているわけです。己を知らないといけないと思います。

 

ー 毎日、昼も夜もフルにエネルギーを放出されて、そして朝は自ら市場に行かれるという日々の中で、次に向けてのインプットはどのように得られているのですか?
S:まず僕の1番のエネルギー源は、お客さんが帰る時に「今日もやっぱり楽しかったわ」とおっしゃるこの一言なんです。僕の疲れは一気に無くなります。活力になります。

 

ー 「おいしかった」よりも「楽しかった」ですか。
S:やっぱり「楽しかった」です。おいしい店っていっぱいありますから。極端な事を言えば、夫婦喧嘩をしたお客さんもいらっしゃるんです。でもせっかくお越しになられたのですから、2時間後には笑顔になって貰いたい。食事と共に、雰囲気と共に…。それで帰りに笑顔になって、仲直りして帰って行かれる、こういった出来事に僕は素晴らしいエネルギーを貰っています。もちろん、エネルギーの放出もしていますけれども。

 

ー 次の献立はこんなのにしようか、というのは、市場で歩いていらっしゃる時にパッと思いつくものなのですか。
S:車の中が多いです。だから、僕の車の席の横には、付せんと鉛筆が置いてあります。例えば、「甘鯛と長芋を、こう料理して」という事を思いついたら、車内に貼っておくのです。アホだからすぐに忘れてしまうものですから(笑)。そしてすぐにやってみて、食べてみて、という事をしています。

 

お店でのお酒の出し方

ー 先ほどお酒がお好きという話でしたけれども、お店で出されているお酒というのは、何種類程あるのですか。
S:夏で12種類、冬場で6種類です。冬場はひれ酒とか燗が入ってくるから、6種類から8種類に収めています。夏場も12種類、多かったら16種類は置いています。お客さんには、全部お任せして貰います。その代わり、好みから外れたら回収します。全部飲んでくださいとは言わないです。お客さんの顔を見て、「このセレクト、外しました?」と聞いて「ちょっとちゃうねんな」と言われたら、「分かりました」と違うものを持ってきます。

 

ー それはお料理とのバランスもありますし、お客さんの好みも見て、ですね。
S:そう、それは見ないといけません。この人は爽やかなのが好きなのだな、とか、この人は純米酒で重たいのが好きなのだな、とか。それは頭の中にデータを入れていきます。

 

佐々木流・人材育成の考え方と、将来の夢

ー 今、このお店でスタッフの方はトータルでは何名いらっしゃるのですか。
S:この店で12人です。別店舗の「楽味」を入れると22名かな。

 

ー さゝ木一門から巣立っていくような、自分で店を持つほど器量のある人というのは、どのタイミングで頭角を現してくるのですか。
S:トイレ掃除です。うちは全員トイレ掃除させているのです。1年生から12年生までいますが、トイレの掃除をさせたらすぐに分かります。掃除の具合を見たら「あ、1年生やな」とか、「あ、中堅クラスかな」とか分かります。巣立っていくような人間は、掃除をしている箇所が違います。カレンダーを見たら、「やっぱり彼やな」となります。

 

ー それはお客さん目線で、まず目につくところからきちっと、時間の限りやっていって、という感じですか。
S:そうです。

 

ー ただ、薄く広くやっているのとは違うのですね。
S:磨くところが違います。

 

ー ただ漫然と掃除をしているだけの人、何のために掃除をしてどういう事が大切なのかを考えながら掃除している人で違いがあるという事ですね。
S:違います。そしてそれが料理をしても違ってきます。

 

ー 料理うんぬんの前の段階で頭角を現してきて、あとは料理の技術も育っていくと?
S:技術も、包丁で伸びる子もいれば、鍋、味付けで伸びる子もいます。どれだけ包丁で切れて「こいつすごいな」と思っても、味付けをさせたら中々ポイントをつかまない子がいます。包丁を触らせたらじじ臭いけれども、鍋を触らせたら抜群の味付けをしてくる子もいます。「一長一短とはこの事だな」と思いますね。適材適所、性格もありますし、それを見ていかないといけませんね。
ヒマワリの種を10個まいて、必ず15センチのところで花が咲くかというと、咲きません。低いところで咲く奴もいれば、とんでもなく伸びて咲く奴もいます。こればかりは肥やしをどれだけ同じようにやっても分かりません。

 

ー お料理の場合お菓子と違うのは、「レシピ通りに10分焼きましょう」と言っても、どういう風に10分焼くのかというのが、人によって違うでしょうし。
S:本当にそうなのです。5分焼くと言ってもどの時点で5分焼くのか分からないし、火加減も分かりませんし。お菓子ならオーブン180度で3分50秒焼きなさい、と言えば、それで本当にクッキーが上がってくるのですから。

 

ー この粉とこの砂糖とこれ混ぜてね、と。
S:そうです、そうです。

 

ー しかも素材も、昨日良かった鯛が今日になったらちょっと身が…といった事が。
S:本当にそうですよ。真夏とか真冬とか、季節が安定してくれている時はいいですよ。春と秋なんか、おっしゃるとおり、「今日の鯛は良かったのに、次に行ったら全然、ボロボロやん」とか、いっぱいありますね。

僕もまだまだ野望があるわけです。僕は居酒屋をやりたいんです。大人の居酒屋です。その次にやりたいのは、鶏屋をやりたいのです。鶏料理が好きなもので。それから寿司屋もやりたいのです。あと、これはなかなか職人が見つからなくて、育てないといけないのですが…。最後に串カツ屋がやりたいのです。これ、僕の4大好きなものです。

あと欲を言えば、日本酒が好きだから、日本酒のバーをしたいです。これをやったら、全部、違うものばかりでしょう。同じようなお店を出したら、甲乙ができてしまうので、駄目なのです。違うものをやっていって、そこでお客さんが楽しんでいただいたり、僕が帰りに「ちょっと一杯飲もか」と言って寄ったりしたいのです。それが僕の野望です。うまくできれば、なのですが。

 

ー 今後ますますのご活躍をとても楽しみにしています!

 

「祇園さゝ木」
所在地:京都府京都市東山区八坂通大和大路東入小松町566-27