▼昭和8(1933)年創業の「大徳寺さいき家」は、千利休ゆかりの大徳寺をはじめとする京都の社寺や、織物で有名な西陣エリアで長く愛されてきた仕出し料理の専門店。
近年は全国の百貨店催事にも多数出展し、最高級利尻昆布と鰹だしで仕上げる「京風だし巻き」が名物となっています。2018年のSAKE Springでは第1回おつまみグランプリにて、圧倒的な差をつけて優勝となっただし巻玉子、その秘密に迫ります。
京都人のスタンダードとも言うべきだし巻きはどのように作られ、またどのような想いが込められているのでしょうか。
今回は「大徳寺さいき家」店主の才木 昇さん(以下、S)にお話をうかがいました。
※本インタビューは2017年3月に行いました。
京都のだし巻き、京都の弁当が東京でブームに!
ー こちらの創業年は1933年なので約80年前ですね。今も仕出し(出前)を専門にされていますか?
S:織物屋さんが景気が良かった頃は仕出し専門が一杯あったんですが、今や仕出し専門というのは京都全体でも本当に少ないと思いますね。
ー 京都には数多の京料理店や仕出し屋さんがある中で、こちらの強みはどういうところでしょうか?名物のだし巻きには何か秘密があるのでしょうか。
S:まず玉子と出汁の割合です。これは出汁が多いという事があるんですが、あまり出汁が多過ぎると今度は形を保つのが難しいんですね。そこに浮き粉と言って、小麦粉のデンプンなんですが、水溶きしたものを入れると巻きやすいんです。冷めても粉自体が出汁を保ってくれるんですね。よく居酒屋さんなんかでだし巻きを注文すると、巻き立てはホヤホヤだけど、置いておくと出汁がジュッと染み出ていますよね。ああいう事が無くなるんです。
ー なるほど。だし巻き以外にも仕出し店で工夫されている点はありますか?
鯖寿司などの酢飯、お弁当のご飯にも工夫がありまして、一定量のもち米が入っています。そうする事で、持ち帰っていただいて、冷えてもご飯がパサパサにならないんです。次の日に食べていただいても、もっちりしたご飯の食感が楽しめるんです。普通のご飯だけですと、いくら良いお米を使っても時間が経っていき温度が下がるとパサパサになるんですね。それを防ぐための技法というか、昔からの経験で培われたものですね。
こういった様々な点で、普通の料理屋さんとは違う工夫や知恵があります。作りたてはもちろんの事、お弁当としてご自宅で食べていただいても美味しいというのが、強みです。
ー お店で心がけている事や大切にしている事とは何でしょうか?
S:もちろん良い材料を使う事ですね。
ー 仕入などはどのようにされているんですか?
S:出来るだけ顔の見える生産者さんから直接取り寄せていますね。例えば鰻の弁当なんかも、鹿児島の大森淡水という、自分の所で育てて加工して送る生産者さんと取引しています。今まで市場で買っていたんですが、そうすると時期によってどうしても産地が色々動くんですね。魚や野菜は特にそうですけど、とれたりとれなかったりするので仕入れる産地が変わるんです。「同じ位のレベルでお願いします」と言っても、良い時と悪い時があったんです…。
今は生産者さんと直接取引をする事でそういうムラが無くなっています。それに、良い材料をできるだけお安く提供出来ます。
ー 生産者の方の元へ出向く時もやはりありますか。
S:取引を開始する時は必ず生産者さんの所へ行きますね。例えば、うちは穴子やハモを東大阪市の尾崎っていう漁港から仕入れいます。その時も最初は現場を見に行きました。最後は人間性だと思うんですね。その方がどれだけ材料にこだわりを持っているかで判断しています。例えば鯖でも、10匹とれたら10匹全部が使いたいと思う魚とは限りませんしね。やはり、それを選り分ける能力があると所と取引しないと、送られて来た時に「違うのものが来ている」という事になるのですよね。鯖寿司・ハモ寿司セット
ー 仕出し専門の時代から、現在の百貨店催事を積極にされる中で、苦労された点やピンチだった時はありましたか?
S:80年の歴史でも大きく言えば、仕出し屋から惣菜販売へ、そして百貨店催事へと、3回メインの領域が変わって来ているんですね。今後はもっと世の中の流れが早くなるでしょう。もちろん昔からの仕事を維持するのも大事なんですけど、常に新しい、今の人の趣向を最先端で捉える必要があります。
僕は基本的に奥で待っていないで、売り場とか現場に行く事を非常に大事な事だと思っています。お客さんに対面するのが好きなので、出来るだけ自分自身が現場の最前線にいる様にしています。お客さんの話も聞けますしね。「この間のものは美味しかった」とか、「この間のものはちょっと固かった」とか。クレームをいただく事もありますし。それが勉強になります。
SAKE Spring2018にて見事おつまみグランプリに輝きました
独自の技術 冷めても美味しい秘訣とは!?
ー イベントに向けて考えている事を、可能な範囲で構いませんのでお聞かせください
S:そうですね、ぜひ若い方に発信する事が目的ですね。若い方がうちの食材に触れる事はとても少ないと思うんです。「これぞ京の味」というものをぜひ味わっていただきたいですね。普段みなさんが居酒屋さんで食べられるだし巻きとは、食べた時の食感が多分違うと思いますよ。
ー 私も実際にいただきましたが、「さいき家」さんのだし巻きは、すごくお出汁の味がしっかりしているなぁと思いました。そして、玉子がふわふわでとても美味しかったです。
S:シンプルな料理はシンプルであるからこそ良い材料を使わないと、冷めた時に違いが出るんです。ご飯でもそうですし、魚もそうですね。基本的に熱々のものは何でも美味しいです。ですから、冷めた時にちょうど良い味具合になる様に味付けや食感を考えたり、良い具合にあるような調味法をしているんです。
ー なるほど。仕出しの専門店ならではの工夫ですね!
どうもありがとうございました!
【DATA】
「大徳寺さいき家」
所在地:京都府京都市北区紫野上門前町76