▼京都は伏見、藤森にお店を構える「中畝酒店(なかうねさけてん)」。店主の中畝さんは「ミャンマー米」を使ったお酒造りや海底で熟成させた日本酒、その日搾ったお酒を飲んで貰う「今朝しぼり」など、一般的な酒販店の枠を飛び越えて新たな取り組みにチャレンジしています。また、海外でのパーティーに積極的に参加したり、京阪の日本酒イベント「中之島駅ホーム酒場」で清酒部門を担当したりと国内外のイベントに引っ張りだこの存在で、日本酒文化を広く発信し続けています。
今回は京都が誇る日本酒伝道師、また人気漫画『会長 島耕作』のキャラクターとしても登場した「中畝酒店」店主の中畝康博さんにお話をうかがいました。
フレーフレー!日本酒!活動ポイント
・京都随一の仕掛け人。酒販店の枠を飛び越えた「あそび心」満載の取り組み
・日本酒文化の伝道師。海外へのあくなき挑戦
・世界初!? ミャンマー米を使ったお米作り
・最も大切にしているのは日本酒で繋がる「ご縁」
京都随一の仕掛け人。酒販店の枠を飛び越えた「あそび心」満載の取り組み
もともと酒店を営む傍ら、ダイビングのインストラクターをしていたという中畝氏。「人を喜ばせる事が大好きで、日本酒を通じて笑顔を作りたい」いう想いから様々なイベント、プロジェクトに関わるようになりました。全国各地の酒蔵を100件ほど回り、「お米の酒の味わい深さを伝えたい」と熟成酒を中心とした面白い酒蔵の商品をお店で扱っています。
小中規模の日本酒の会を多数開催するほか、ダイビングのインストラクターもしていた事から日本酒を「海中」で熟成させるプロジェクトに参加してみたり、お付き合いのある岐阜のお酒「達磨正宗」と京都の「だるま寺(法輪寺)」をコラボさせた商品を企画してみたりと新しい事に何でもチャレンジしています。中でも、当日の朝に搾ったばかりのお酒を瓶詰めした「今朝しぼり」は地元の人が楽しみにしている年一回の恒例行事になっており、2017年は飲食店も含めなんと720本もの注文があったそう。
(お店の一番人気「澤屋まつもと」と「今朝しぼり」)
日本酒文化の伝道師。海外へのあくなき挑戦
中畝さんは積極的に海外との繋がりを作っています。大使館が主催するレセプションや海外のパーティーには出来るだけ参加し、その国の料理や文化に合うお酒を厳選、そしてイメージに合ったオリジナルのラベルを開発します。
時にはお酒造りから関わり、イタリアでの国交150周年イベントのレセプションに参加した時は、京都の酒米「京の輝き」を100%使用したお酒を京都の酒造メーカーと開発、さらにボトルも従来の日本酒の四合瓶とは全く違う形を採用しました。ワインを昼からぐいぐい飲むイタリアの方の文化に合わせてライトな感覚で飲めるお酒を持っていったそう。
また、台湾では日本文化のPRのために伏見稲荷をデザインした純米吟醸酒、そして猫好きが多い台湾の方に向けて猫の浮世絵をラベルにした梅酒「猫の温泉」を現地で振る舞い、キルギス大使館のレセプションに参加した時は何と牛皮でラベルを作りました。
さらに今年8月には、京都のホテルで「外国人」だけを対象にした日本酒講座を企画しているようです。
(ジェノバで乾杯!)
世界初!? ミャンマー米を使ったお米作り
現在中畝さんは全国初の「ミャンマー米」を使ったお米作りに挑戦しています。きっかけはミャンマーへ日本酒を輸出した時に尋ねられた「ぜひ農業国ミャンマーのお米を使った日本酒を造れないだろうか?」という依頼でした。長細いミャンマー米では精米するのは難しく、本当に旨い日本酒が出来るのか半信半疑でしたが、この大きなチャンスを逃すまいとその場で「出来ます!」と即答したそうです。
その熱意に共感した京都・伏見の「招德酒造」と二人三脚で試行錯誤を重ねながら何とか製品化し、各メディアに取り上げられました。この新たな取組はやがて海を渡り、ミャンマーの国営放送からも取材を受けました。最終目標は京都に留学経験のあるアウンサンスーチーさんに、この日本酒を直接手渡し現地で生産することだそうです!
「日本とミャンマーの友好の架け橋になるように」と願いを込めて作った世界初のミャンマー米で出来た日本酒、まだまだ試作段階ですが、日本や現地で日の目を見る時もそう遠くはないかもしれません。
(国営放送の取材時の様子)
最も大切にしているのは日本酒で繋がる「ご縁」
中畝さんが仕事をする上で一番大切にしている事は「ご縁」だそう。「お酒を通じて輪が広がっていく。これがイベントをするたびに感じる事です。今まで取り組んできたイベントやプロジェクトは全て自分ひとりではなく、関わる誰かとのご縁あっての事なんです」と語ります。
小中規模の日本酒の会をきっかけに次のプロジェクトが動く事があります。京阪の車両とホームをまるごと酒場にした「中之島駅ホーム酒場」もその一つ。以前中畝さんが開催した会に参加していた京阪の担当者からお声がけがあったのが契機となって3回続いた同イベントでは、日本酒の提供・販売を担当しています。会場では昔の京阪車両の絵柄を入れたオリジナルラベルのお酒を販売したり、京阪沿線の酒蔵のきき酒セットを提供したりと、多くの鉄道ファンの心を揺さぶりました。
こうしたお酒を通じたコミュニケーションの場を提供する事が人と人とを繋ぎ、また新たな「ご縁」となって広がっていくのです。
(中之島駅ホーム酒場にて「吊革で乾杯」)
取材担当者より
日本酒文化の発信に関して、ここまでのやる気と好奇心に満ち溢れた人に初めて出会いました。「酒はこうでなければいけない」という固定観念は一切なくあそび心満載で、自ら未知の世界へ飛び込み、むしろ楽しみながら無理難題に取り組んでいる印象を受けました。また「酒販店の社長」としてビジネス的にではなく、「人の縁」を通して仕事をする姿勢が多くの人の心をつかみ、応援されるのだろうと感じました。
(漫画『会長 島耕作』の一コマ。作中では「酒のなかぼね」として描かれています)
【DATA】
「中畝酒店(なかうねさけてん)」
所在地:京都市伏見区深草直違橋6-291