【熊野酒造】海を臨む京都・丹後で、甘みと香り豊かな酒造りを


▼京都府北西部、日本海側の一帯は丹後地方と呼ばれています。山と海の織り成す風景に一年を通じたくさんの観光客が訪れます。特に「熊野酒造」のある久美浜町は、山陰海岸随一の6km以上に続く白い砂浜と「小天橋」と呼ばれる砂州に仕切られた内海の久美浜湾があり、四季折々にその美しい姿を変え、訪れる人を楽しませてくれます。
「熊野酒造」はその久美浜湾の最奥岸にあり、酒蔵から湾が一望できる事から酒銘を「久美の浦」と命名したそうです。熟練の但馬杜氏より技術を受け継いだ、新杜氏・柿本達郎さんが精魂込めて手造りする純米吟醸は、全国各地の方々に愛飲されいます。

杜氏の「熊野酒造」の杜氏 柿本達郎さん。杜氏としては異色の経歴を持つ柿本さんにお話をうかがいました。
(以下、柿本さん=K)
※本インタビューは2016年12月に行いました

もくじ

■ラベルは自ら書いた独り言!純米吟醸『杜氏の独り言』
■異色の経歴を持つ新杜氏と日本酒の未来への思い
■京丹後市・久美浜町の名物

ラベルは自ら書いた独り言!純米吟醸『杜氏の独り言』

― この純米吟醸「杜氏の独り言」のラベルは毎年変わっているそうですね。
K:そうなんです。こちらのラベルには本当に杜氏の独り言が書いてありまして、内容は毎年変えています。そして独り言の最後には、杜氏の氏名が書いてあるのですが、これが今年から私の名前になりました。

― 自分の書いた独り言がラベルになったお酒というのは、どうですか?
K:やや恥ずかしいような気もしますが、ありがたい事だと思います。お客様におすすめする時にも「ラベルも酒も私がつくりました」と自信を持って言えますしね。
氏名が書いてある以上、いい加減な物は出せないので背筋が伸びる思いですね。

異色の経歴を持つ新杜氏

― 大学では何を専攻されてたんですか?
K:工学部でしたね。有機化学を中心とした化学工学を勉強してました。

― 酒造りは全く違うジャンルですよね。酒蔵を継ぐという事は子供の頃から考えてらしたのですか?
K:そうですね~。この酒蔵は私の曽祖父が昭和初期に創業したと聞いておりますので、私が継げば4代目になる計算ですね。しかし子供の頃は酒蔵を継ぐなんて事は、進路の上であまり考えていませんでした。親父も「継げ」とは言わず、「好きな仕事をしたらいい」と言ってましたし…。何となく「誰かが継がなきゃいけないんだろーなー」って位にしか考えていませんでした。なので卒業後、言われた通り好きな仕事を選んだ結果が教育業界で進学塾の講師という仕事でした。

― 前職は塾講師だったんですね。何年ほどされていたんですか?
K:3年間勤めました。塾に努めて3年目の正月だったと思います。実家に帰省した際に父から聞かされた話が「うちに今勤めに来てくれている杜氏がもうすぐ80歳になる。技術継承出来るなら今だ。もし酒蔵を継ごうかなって想いがあるなら、帰ってきて酒蔵を手伝ってくれたら嬉しい。しかし昨今の酒蔵と言うのは決して大儲けできるような仕事ではない。だから継げとは言わない。お前が決めなさい」でしたね。「継げ!」と言われたら「やだ」とも言えたんでしょうけど、冷静に言われてしまったので冷静に考えてしまいましたね。「継がない事を選択したら、きっと将来、今はうまく言えないけど何らかの後悔が残るだろうな」と。

― なるほど。そのお話のあとすぐここへ戻って来こられたんですか?
K:そうですね。結局こっち(久美浜)に帰って来たのがその年の春でしたね。2011年だったので今から6年前ですかね。帰って来てすぐの頃は、なにかと大変でしたね。何せ知識や酒造技術なんてかけらもなかったですから。
なので入社してすぐ、東京の酒類総合研究所の研修に1ヶ月半ほど行きました。そこで酒造りのいろはを学びました。研修で本当に最低限の知識だけ身に付けた状態でここに帰って来て、出荷作業や冬の酒造りを通して勉強の毎日でした。
そして去年、先代の杜氏から「専務さん(私)ならもう大丈夫。まだ不安もあるだろうけど、杜氏としてやってみなされ」と言って貰いまして、去年秋から正式に杜氏として酒造りをさせていただくに至りました。

― 柿本さんの今後の展望はありますか?
K:一つはうちのお酒が少しでも有名になってくれたら嬉しいなと思っています。うちは田舎ですけど「京丹後市」とか「久美浜町」という名前を聞いた時に、知ってる方だと「夕日ヶ浦温泉」や「小天橋の海水浴」「冬のカニ料理」なんかを思い付く方が多いのではないでしょうか。ですが、その中に「ああ、あそこ『久美の浦』って酒あるよね」って思ってもらえると嬉しいですね。お酒の銘柄名が「久美の浦」だけに町の名前も連想しやすいので、町、お酒ともに有名になってくれたらなと思います。
もう一つは、海外輸出ですね。数年前から香港の輸入業者さんにお世話になる事が出来まして、現在香港へお酒の輸出を行っております。ここ最近海外で日本食が非常に注目を集めている状況が続いておりますので、それに合わせて日本の清酒を海外のお客様におすすめさせていただくお手伝いが出来たらと思っています。これからもっともっと海外を視野に入れて久美の浦のお酒を世界にPRしていきたいですね。

海を臨む久美浜町!名物について

― この久美浜町の名物、名品とはどのようなものですか?
K:魚とかお菓子とか色んなものありますが、中でも私が好きなのは「鯛せんべい」ですね。魚肉を出汁と合わせて練り込んで焼いた上品な塩味ですのでお酒のおつまみとして最高です。わってお吸い物の中に入れてもおいしいですよ。よそへお土産にするんであればおすすめです。
他には「このしろ寿司」という一風変わったお寿司が久美浜名物として有名ですね。コハダという魚がもうちょっと成長して大きくなったら、このしろって言うんです。このしろを酢でしめ、豆腐を作る際にできる大豆の搾りかす・おからを詰めた、甘酸っぱいお寿司です。お魚の姿がまるまるあって、そのまま輪切りにして食べるみたいな。私はどっちかというとあまり好きじゃないんですが、好きな人によるとハマるおいしさだそう。後は冬だったら、この辺で一般的に食べられてるのはカニですかね。この辺ちょっと走ったらカニ屋さんがあちこちにありますよ。冬にこのあたりに来る観光客といったら大体がカニを食べに来られたお客様ですね。貴重な観光資源だと思います。

― お薦めの”日本酒のおつまみ”はありますか?
K:いやぁ…ちょっと変わった呑み方が好きだったりします。
仕事がひと段落した時なんかには、酒蔵の蔵人の皆さんと食事に行く事があるんです。どこにいくかと言いますと、決まって近所のたこ焼き屋さんに行くんですよ。

― たこ焼き屋さんですか??
K:この近所におばちゃんがやってるたこ焼きやさんがあるんですよ。小さいお店なんですが、大きな窓から湾が一望できて、情緒あるローカルな雰囲気があって、何よりありがたいのが、おばちゃんのご厚意で蔵のお酒の持ち込みを認めて下さるんですよ。「近所やしえーでー!」みたいな(笑)そのお言葉に甘えて、その年に搾ったばかりの新酒や新商品などを、蔵人たちと苦労話を交えながら和気藹々と酒を酌み交わすのが好きですね。

「のんきや」京都府京丹後市久美浜町2917

― 粉もんと日本酒ってすごく新しいですね。
K:そうなんですよ。新酒にたこ焼きやお好み焼きを合わせて食べる。意外かもしれませんが、味がしっかりしたお料理なので純米酒とか合わせても結構いけますよ!上品に呑むのもいいですが、呑みやすい環境で大衆的な感じで呑むのも楽しみ方の一つだと思います。

DATA
「熊野酒造有限会社」
所在地:京都府京丹後市久美浜町45-1
代表銘柄:「久美の浦」

▼主な受賞歴
インターナショナルワインチャレンジ2012で「純米大吟醸」がブロンズ賞
平成24年度(2012)全国新酒鑑評会に入賞