▼創業は天正年間の1576年、京都と若狭をつなぐ若狭街道(鯖街道)沿いの茶屋として発祥。京を出て旅路につく者、都へ上る者など、多くの旅人が足を休めた同店は、北大路魯山人や夏目漱石といった多くの文化人にも愛されてきました。
料理は創業当時より受け継がれる名物「麦飯とろろ汁」やぐじ(甘鯛)を用いた若狭懐石、鯉や鮎といった川魚を使った川魚料理、丹波産いのししのボタン鍋など、季節の恵みをふんだんに取り入れ、その恵みをゆったりと味わえる料理です。
今回は「山ばな 平八茶屋」代表取締役社長の園部晋吾さん(以下、S)にお話をうかがいました。
※本インタビューは2017年2月に行いました
街道沿いで440年超。変化の連続で紡がれた歴史
ー 440年以上のすごい歴史がありますが、代々受け継がれてきているものというのは何かあるのでしょうか?
S:何かを受け継ぐというよりも、実際には変化の連続です。ずっと440年前と同じ事を今やっていても誰にも受け入れて貰えませんし、時代が違いますから。うちの店の場合は特に、その代によってやり方も考え方も変わっていっております。父親の代でやってきた事であっても「私自身がちょっと違うな、納得できないな」と思うものは全部変えていきます。
ー なるほど。その時代、その時代に対応していくということなんですね。やはり、味も変わっているのでしょうか。
S:味もやっぱり変わっています。「京料理というのは薄味だ」とかよく言われていますよね。一般的に言われているのですが、薄味ではないんです。実際に昔の京料理というのは、かなりこってりしていたのです。なぜかというと、新鮮な海の魚が手に入りませんから、干したものや塩蔵したものになる。生で入ってきても鮮度がよくないので、当然臭いも強く、しっかりと味をつけないと食べられなかった。特に川魚というのはしっかりと味をつける方なので。最近になってこそ流通面から素材の状態が良くなって、初めて味を薄くしても食べられるようになってきたのです。
ー そういった背景があったのですね。食材も丹波産のつくね芋だったり、お米も岡山県産だったりとこだわっていらっしゃると思うのですが、そういった部分もその都度変化して、考えていらっしゃるのでしょうか?
S:そうですね。米は端的な例ですけども、父の時代から私が変えました。父親が麦ご飯を作るにあたり、一番おいしくて高い米というのがコシヒカリだったのです。だから、コシヒカリと麦を合わせた。私はどうしてもコシヒカリのモチッとした感じと、麦のパサッとした感じというのが合わないなと感じていまして。その麦に合うような米はないのかなと探し始めたのです。そこで辿り着いたのが岡山の「朝日米」だったのです。
ー 麦との相性がより良くなったということでしょうか。
朝日米の味は、甘みが強いわけではなくて昔ながらのさっぱりした味で、割と大粒で歯ごたえもしっかりとあります。それと麦を合わせる事によって、違和感がなくなりました。
ご飯単体で食べると確かにコシヒカリの方がおいしいのかもしれませんけども、とろろをかけた時に、お互いすっと間に入って馴染んでいって、なおかつ粒がしっかりとし存在感がある。米の粒も麦の粒も感じられる。だから、とろろとよく合う。他にも出汁の取り方なども変えました。
ー そうして変化をしながら「平八茶屋」は歴史を繋いでいくんですね。現在は宿泊業もなされているという事ですが、何名程泊まれるのでしょうか?
S:宿泊は2人部屋が8つで、最大16名です。比率としては海外の方が圧倒的に多いです。「かま風呂」もありますし、日本の昔ながらの生活の体験をしてみたいという方がいらっしゃるんです。
ー 海外の方だけでなく日本人の方にとっても「かま風呂」は珍しいと思いますが、昔からあるお風呂のスタイルなんですか?
S:はい、そうですね。蒸気などで室(むろ)を満たして、そこに入って汗をかいて垢をこすり落とすというのが昔ながらの日本の風呂(蒸し風呂)です。湯船につかるようになったとのは江戸時代に入ってからの事ですので、風呂の原型のようなものです。摂氏60℃くらいなので、20~30分、ゆっくり入って汗をかく。あとは隣の湯船で汗を流してもらう。珍しいととても喜ばれます。
食育を通して未来へ繋ぐ和食文化
ー 文化を伝えるという事では毎年、夏に子供たちに日本料理を伝えるイベントなども開催されていますね。
S:今、食育に力を入れて取り組んでいます。京都市内の小中高、そして大学を回り、出汁の良さや日本料理の良さ、そういった事を伝えています。時には、泳いでいる鮎を捕まえて貰って、串を打って焼いて食べて貰うといった事もやります。子ども達は案外怖がらずに出来ますね。
ー やはり好奇心が勝ってでしょうか?
S:そうです、好奇心が勝って。ハモの骨きりを見てもらって、それを湯引きにして落としにするようなところを見てもらい、実際に食べてもらう。まずは親しみを持ってもらい、自分達の和食文化に触れてもらう、接してもらうという事を大事にしています。
ー 今後取り組まれていきたい事などはありますか?
S:食というものに対して興味関心を持ってくれる人が増えていって欲しいな、と思います。興味関心がないから、食事がすごく雑になるのです。例えばこれは自分の体にとって良いのか悪いのかという事を、自分達で考えられるようになるのが目標ですね。
そして最終目的として、食育の場を家庭に返す事なのです。
ー 家庭に返すとは…?
S:今まで食育というのは家庭で自然に行なわれていた事なのです。それは、おじいちゃんおばあちゃんが担ってくれていたのです。ところが、核家族になって、夫婦共働きになって、子供たちは孤食といって、1人で食事をするようになっていきました。そうすると、食卓には会話もなければ、食に対しての話もないので、当然食育なんてものは出来ませんよね。「ご飯粒残したらバチ当たんで」とか「箸ってこうやって持たなあかんよ」といった事です。
今は私達が代わりに食育をおこなっておりますが、本来は家庭にお返しして、日本の文化・風習は家庭で受け継いでいかれるべきだと思っています。
2017年SAKE Springに出品。お花見弁当
【DATA】
「山ばな 平八茶屋」
所在地:京都府京都市左京区山端川岸町8-1